「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第72話

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自キャラ別行動編(仮)
<ケンタウロス>



 時は少し遡る

 イングウェンザー城から出発して3日、東に向かって大地の上位精霊ダオは走る。
 私はその背中の上で揺られながら周りの風景を見渡していた。

 「う〜ん、見渡す限り草原ね。所々に木は生えているけど、これだけ見渡せる状況なら何かいたらすぐに解りそう」

 「あやめ様、あやめ様。私もそう思います。ぐるっと見渡した感じ、お探しのケンタウロスはこの辺りにはいないみたいですねぇ」

 私の独り言に肩にとまった風の精霊、シルフのシルフィーが目の上に右手の平をかざして周りを見渡した後、元気いっぱいな声で答えてくれた。
 う〜ん、独り言だったんだけど自分への言葉と思ったのかな?

 まぁ一人で考えているのもなんだし、折角会話の相手になってくれると言うのだから彼女と話しながらこれからの事を考えることにするかな。

 「シルフィー、ケンタウロスがいないというのはあなたの考え? それとも周りを探知しての事?」

 「見渡しただけで魔法を使っての広範囲の探知はしていませんよぉ。ご命令も無いですもん。でも目に見える程度の範囲なら風が教えてくれるから、近くに居ないのは確かですよ」

 なるほど。
 でもまぁ小動物ならともかく、相手はケンタウロスだ。
 この草原では隠れようとしてもそんな場所は無いし、見える範囲だけと言うのなら風に教えてもらわなくても、私にだって解る。

 「ザイル、あなたはどう?」

 念のため、大地の上位精霊、ダオのザイルにも聞いてみた。
 私の知っているケンタウロスは穴をほって地面に潜ったりはしないから、あくまで念のためだけどね。

 「土の下に何かいる気配は無い、である」

 「まぁそうだろうねぇ」

 想像通りの答えが帰ってきてホッとしながらも、同時に何の手がかりも無いんだよなぁと残念な気持ちにもなった。

 とにかく情報が足りない。
 ケンタウロスは下半身が馬の獣人だけに、その行動範囲はかなり広いのよね。
 イングウェンザー城を偵察に来ていたと言っていたけど、彼らなら数十キロ離れた場所からでも平気で見に来るだろうし、そんな彼らの集落を探すとなるとかなり大変なんじゃないかなぁ?

 「シルフィー、とりあえずここから前方に向けて魔法で広範囲索敵をおねがい。今のところ、何の手がかりも無いから探しようも無いからね」

 「はいはぁ〜い、わっかりましたぁ」

 そう言うとシルフィーは私の肩から飛び立ち、かなり上空まで登っていった。
 上空の方が地表よりも風が強いし遮蔽物が無いから同じ威力の精霊魔法を使ったとしても、より広範囲に影響しやすい。
 だから風の精霊魔法を使う場合は、より高い所で行った方が有効らしいのよ。

 そしてしばらくたった後、彼女はゆっくりと降りてきた。

 「あやめ様、あやめ様。少なくとも前方2〜30キロ圏内にはケンタウロスはいませんね。それどころか魔物は一匹もいませんでした。いるのは動物だけです」

 「そう。じゃあ、見当違いの方向を探してる可能性もあるわけかぁ」

 魔物がいないのはここがケンタウロスのテリトリーだからだと思う。
 カロッサさんの話では、自分の縄張りに入って来た者に対して彼らは攻撃的になるという話だしね。

 「ん? 待てよ」

 そうだ、カロッサさんが言うとおり縄張りに入って来た者に対して攻撃的になるというのなら、私はなぜ襲われていないの?
 隠密行動をしているのならともかく、ダオで疾走しているのだから目立つ事この上ないのに。

 「もしかして、こちらの力量が解らないからと、どこかから見張られてるとか?」

 自分の考えで急に不安が増し、私は周りを注意深く見渡した。
 確かに見える範囲にケンタウロスはいない。
 でも彼らがもし鷹のように物凄く目が良くて、数十キロ先からでもこちらを見る事ができるとしたら?
 いや、それ以前に使い魔を使役して、小動物の目からこちらを監視しているとしたら?

 「案外厄介な相手かもしれないわね」

 もしそうなら少し探し方を変えるべきかもしれない。

 「よし決めた! シルフィー、近くに川か湖はない?」

 「ちょっと待ってくださいね。う〜ん、あっあった。あやめ様、あやめ様。今向かっている方向から少しだけ北よりに方向を変えて、10キロほど行った所に湖があります」

 いくら広範囲を移動できるケンタウロスとは言え、生活するには水が要るのだから集落があるとすれば川か湖の近くなんじゃないかな?
 種族の安全の為に見つかりやすい場所には大きな部落は無いかもしれないけど、水場を守る為の小さな集落くらいはあるかもしれない。
 そう私は考えたのよね。

 「ザイル、とりあえずその湖に向かって。その近くに集落があるならよし。無かったらそこに小屋を建てて、拠点にしましょう」

 「解った。湖に向かう、のである」

 こうして私たちは草原の湖へと進路を向けるのだった。


 ■


 ケンタウロス。

 彼らはかなり臆病な獣人で、外見が好戦的なセントールとよく似ているから勘違いされやすいが基本あまり争いを好まない。

 その数十キロを見渡す良い視力と遥か遠くを飛ぶ鳥でさえ撃ち落す弓の腕で遠距離から相手を殲滅するその戦闘力はかなり高いと言える。
 だが実際に戦闘が行われた場合、魔法で広範囲攻撃をされてしまえば自分たちではどうにもならないことを知っている為にわざわざ他の種族やモンスターと戦おうとは彼らは考えない。
 だからこそ、豊かな森ではなく小動物や野草くらいしかない草原をテリトリーにしているのだった。

 人が彼らを好戦的だと勘違いしているのは人を食べるセントールと外見が良く似ているのと、狩りの為に放った矢が偶然通りかかった冒険者の近くに当たり、その矢が自分たちの魔法や弓がとてもとどかないほど遠くから放たれたのを見て震え上がって報告したのがきっかけだった。
 それ以来ケンタウロスは、自分の縄張りに入ってきたものには容赦することなく、常に侵入者の攻撃がとどかない程の遠距離から攻撃を仕掛けて反撃さえ許さず相手を殲滅する危険な獣人であると言う間違ったイメージがさも世の常識であるかのように広まったのだった。
 
 しかし実際のケンタウロスは争いを好まず、酒と音楽を愛する穏やかな獣人だ。
 そんな彼らだからこそ、自分たちのテリトリーのすぐ近くに突然出来た人間の城にはかなりの脅威を感じたのだった。



 時はさらにイングウェンザー城がこの世界に転移した頃まで遡る。

 一番大きい集落であるミラダの族長チェストミールは、村の若者の言葉に驚かされていた。


 「人族の城が一夜にして出現しただと?」

 自分の白く長い髭をなでながらワシは訝しげな目を騒ぎ立てる若者に向けた。
 それはそうだろう、自分たちの部落にある一番小さな小屋でさえ建てるのには1週間はかかる。
 なのに出現したのは小屋ではなく城だと言うのだから。

 「何を馬鹿な事を言っている? 城が一夜にして建つはずが無いだろう。幻でも見たのではないか?」

 「族長、そんな事は無いですよ。俺だって自分の目を疑ったんですから。でも本当のことなんです、前の日には無かった大きな城が建っていたんですよ」

 確かに部落の中で見たと言うのなら寝ぼけていたと言うこともあるだろうし、夢だと言う事もあるだろう。
 だが彼が見たのはこの部落から遥かに離れた場所、人のテリトリーの近くだと言うのだ。

 「本当なのか?」

 「だからそう言ってるじゃないですか! もしかすると人族が我々と戦う為に建てたのかもしれないですよ。どうしましょう、族長」

 ワシらケンタウロス族はかなり広範囲を狩場とする種族だ。
 普段は自分たちで集落を作って生活をするが、いざ戦いともなれば平原を縦横無尽に駆け巡り、相手に拠点を悟られる事なく相手の拠点を落とすと言う戦い方を得意としている。

 脆弱な人族といえどそこまで愚かではあるまい。
 そんなワシらと戦う為に城を築くとはとても思えないが、城ができたと言うのなら人族にとって何か思惑があるということなのだろう。
 場合によっては争いが起こるやもしれない。

 「これは他の部族にも知らせるべきじゃな。おい、他の3部族の族長に連絡を送れ! 緊急会議じゃ」

 「解りました!」

 そう言うと、ケンタウロスの若者は蹄を鳴らして急いで走っていった。

 「厄介な事にならないといいのじゃが・・・」

 厄介にならない事などありえないと考えながらも、できる事なら穏便にことが済む事を祈るのでだった



 翌日の昼過ぎ、ワシの家で4部族の族長がそろって話し合っていた。
 内容は当然、突然出現したと言う人族の城についての事じゃ。

 「それでその城と言うのはどれくらいの大きさなんだ?」

 「解らん。何せその城を見たのはうちの部族の若いもん一人じゃからのぉ」

 他の3部族はワシの部族と違って数年に一度、その時の一番狩りがうまいものが選ばれる為、皆若い。 
 先程の発言をしたのはオルガノの族長、フェルディナントじゃな。
 金色の長い髪と金色の瞳、すらっとした立ち姿と凛々しい顔立ちでケンタウレたちに一番人気のある族長じゃ。

 「あら、それならば誰かが確認しに行かなくてはいけないのではないですか?」

 フェルディナントの言葉に偵察を提案したのは唯一のケンタウレであるベルタの族長、オフェリアじゃな。
 彼女は白に近いプラチナブロンドと白い肌、そして下半身も白馬と言うとても美しい姿のケンタウレじゃ。
 瞳の色も銀色で、全体的に白いイメージじゃな。
 そして精霊を信仰する我らケンタウロス族の最高位の巫女でもある。

 「そうだな」

 そして最後に発言したこの男。
 彼の名はテオドル、ラダナの族長じゃ。
 彼はオフェリアとはある意味真逆の姿でな、黒髪に黒い瞳、褐色の肌と輝く黒い毛並みの下半身を持つ、がっしりとした力強い印象の男じゃ。
 少々無口で必要な事意外喋らないが狩りの腕は超一流で、いざと言う時はとても頼りになる男じゃ。

 「オフェリアの言うとおり早急に調べたほうがワシもよいと思うのじゃが、誰を派遣するのがいいじゃろうのう?」

 「下手な者を送っても意味がないだろう。ここは私が行くとしよう」

 人族の城はかなりの脅威じゃ。
 それが解っているだけにフェルディナントが自ら名乗りを上げる。

 確かにこの状況では下手な者を送っても意味は無いじゃろう。
 そして折角送るのじゃからきちんと偵察をしてきてくれるものを送り出さねば意味がない。

 そう考えると、この場合は確かに族長の一人であり、頭の回転も速く冷静な彼が適任じゃ。
 ワシでは体力的に不安があるし、無口なテオドルでは見た事を詳しく報告してくれるかどうかさえ解らんからな。

 「そうじゃな、それではフェルディナントに・・・」

 「少し待ってくださいます?」

 納得し、フェルディナントに偵察を頼もうとしたところで横槍が入った。
 オフェリアじゃ。

 「それならば私もご一緒しますわ。精霊の力をお借りすればただ遠くから見るだけよりは詳しく解るでしょうから」

 おお、確かに精霊様の力をお借りすることが出来るのならば、大助かりじゃ。
 それにオフェリアは女性じゃからのう、危険かもしれない偵察任務に出てほしいとは言えないと考えたのじゃが、本人がいくと言うのであれば問題なかろうて。

 「むっ、確かにその通りだが・・・うむ、仕方がないか」

 オフェリアの言葉に一瞬躊躇しながらも、その優位性に納得してフェルディナントはその提案を受け入れたようじゃな。

 彼はその外見でケンタウレたちにもてるのじゃが、どうも女性を苦手にしている節がある。
 今回もできれば同行は避けたかったのかもしれんが、精霊様の御力を借りると言われてしまえば引くしかないのじゃろうなぁ。

 「うむ、では二人とも頼むぞ。事はケンタウロス全体の危機に繋がるかもしれないのじゃから、しっかりと調べてきてくれ」

 「おう」

 「解りました。私たちに任せてください。では行きましょう、フェルディナント」

 そう言うと彼女はフェルディナントに擦り寄り、腕を組んだ。
 
 「なっなにを!?」

 突然の事にフェルディナントは慌てて離れようとするが、その腕はオフェリアにしっかりと掴まれており突き飛ばしでもしないと振り払うことは出来なさそうじゃ。
 そしてフェルディナントにそのような事が出来る訳がない。

 そんな彼をオフェリアは蠱惑的な笑みを浮かべて見上げる。
 その目に見据えられてフェルディナントは固まってしまったようじゃ。

 うむ、オフェリアの勝ちじゃな。

 「急ぎましょう、ケンタウロス全体の危機なのですよ?」
 
 「ちょっ、待て、待てと言うのに」

 その姿に満足したオフェリアに、抵抗むなしくフェルディナントは引きずられていった。

 しかし、

 「本当に大丈夫なのか、あやつらで?」

 「さぁな」

 その姿を見て、少しだけ不安になるワシとテオドルじゃった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 すみません、いつもよりちょっと短いです。
 もう少し続けられるのですが、そうすると今日中に書きあがら無そうなのでここで切らせてもらいました。

 主人公ですがあやめの中に入っているけど、口調は余りあやめらしくしようとしていません。
 と言うのも、よくよく考えたら人前に出た時のアルフィンよりも地の口調に近いと気付いたからです。
 でもまぁ、一人称だけは「あたし」と言うのを間違えないようにと考えてはいますが。

 さて、今回初登場のケンタウロスですが当然のごとく新キャラだらけです。
 名前だけでは把握はし辛いですが、この4部族長はそれぞれ爺さん、金髪、白、黒とでも覚えてください。
 それでわかるように描写しますので。


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